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トランジション・ファイナンスに関する石油分野ロードマップ
経済産業省が2月4日に「『トランジション・ファイナンス』に関する石油分野におけるロードマップ」を策定しましたのでご紹介します。
「トランジション・ファイナンス」に関する石油分野におけるロードマップ(経済産業省)[PDF]
1 背景
2020年10月の政府の「カーボンニュートラル宣言」を受けて、同省は脱炭素に向けた省エネやエネルギー転換等の移行(トランジション)に焦点を当て資金供給を促す、トランジション・ファイナンスを推進しています。
この政策の一環として、2021年5月には環境省・金融庁と共同で、産業界が脱炭素化への移行に向けて、「トランジション・ボンド/ローン」と名付けて資金調達を行うことを可能とするための基本的な考え方を整理した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」(以下、「基本指針」)を策定しました。
さらに2021年8月には、この基本指針に基づき、企業のトランジション戦略の策定やその適格性を判断する上での参考となる分野別のロードマップを策定するための「経済産業分野におけるトランジション・ファイナンス推進のためのロードマップ策定検討会」を設置し、検討が進められてきました。
同検討会では、今年度について、特にCO2多排出産業であり、排出ゼロのための代替手段が現状利用可能でない分野として、石油を含む7分野のロードマップが策定されることになり、石油分野は昨年12月より有識者による検討が開始され、本年2月に公表されるに至りました。
2 石油分野ロードマップの概要
石油分野のロードマップは、
【1章】前提 (石油分野におけるロードマップの必要性、考え方や対象範囲等)
【2章】石油産業について (石油の位置づけ、脱炭素に向けた方向性等)
【3章】カーボンニュートラルへの技術の道筋 (CNに向けた技術オプション、ロードマップ等)
【4章】脱炭素化及びパリ協定の実現に向けて (今後の展開等)
から構成されます。
特に本資料の中核となるものは、3章で示される各低炭素・脱炭素技術の実装年を整理した「技術ロードマップ」であり、この内容は、石油連盟が昨年3月に策定した「石油業界のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)」とも整合する内容となっており、「ビジョン」に示された排出削減の取組みが、カーボンニュートラルの実現に向けた「トランジション」に該当すると認められたことになります。
本稿では、「1章:前提」と「3章:カーボンニュートラルへの技術の道筋」を中心に見ていきます。
3 石油分野ロードマップのポイント
【1章】前提
1章では、石油分野におけるロードマップの必要性や、目的・位置づけ、基本的な考え方や対象となる取組みの範囲が以下のように整理されています。
(3ページ) 石油分野のロードマップの必要性
✓引き続き石油の安定供給の確保に努めるべきこと(☞5ページ)
✓石油分野単独のみならずあらゆる選択肢でトランジションを進めるべき特性を持つこと(☞6ページ)
✓ESG資金活用に向けて投資家視点も理解した戦略開示が求められること
から、石油分野のトランジションを着実に進めるため、これらの特性を踏まえたトランジションの「絵姿」と「技術の道筋」を示すことが必要として、本ロードマップが策定されました。
(4ページ) ロードマップの目的・位置付け
ロードマップの目的として、主に以下の二つが想定されていることが示されています。
・石油企業における活用
トランジション・ファイナンスを活用する際に策定が求められるトランジション戦略を検討する上で参照すること
・金融機関・投資家における活用
石油企業による資金調達がトランジション・ファイナンスとして適切なものか否かを判断する際の判断材料
(5ページ) 石油分野のロードマップの基本的な考え方
ロードマップが、「企業のトランジション戦略の妥当性評価の指針」、「個別の企業のプロジェクトのトランジション適格性の指針」であることを記しつつ、
・我が国個別の事情を踏まえたもの
我が国のトランジションへの取組みは、我が国のエネルギー政策と整合的
・トランジションにおいても石油の安定供給は大前提
石油は足元で国民生活・経済活動に不可欠なエネルギー源、災害時は「最後の砦」
であることも明記され、石油企業がトランジション戦略を策定する際や金融機関等がそれら戦略を含めた石油企業の資金調達の適格性を判断する際も、石油の安定供給を前提として考慮することを求めています。
(6ページ) 石油分野のロードマップの範囲
3ページで「あらゆる選択肢が必要」とされていたことに関して、石油分野のトランジションの取組みには、ロードマップとして3章で詳述される精製プロセスの低炭素・脱炭素化や脱炭素燃料の供給体制へのシフトなどの中核的な取組みの他にも、以下のような取組みが含まれることが示されています。
✓カーボンクレジットの活用やカーボンオフセット商品の購入など
✓製油所・SS等の事業再構築などの燃料供給機能の適正化に向けた取組み
✓再生可能エネルギー事業への展開
✓他分野のトランジションに貢献する取組み(省燃費エンジンオイルの供給など)
✓公正な移行への取組み
【3章】カーボンニュートラルへの技術の道筋
3章では、石油精製業のトランジションに資する有望な技術がリストアップされ、各技術の概要、排出削減水準、実装年とともに、エネルギー基本計画やグリーンイノベーション基金の社会実装計画などの政策との整合性が示されています。
1章で「石油の安定供給は大前提」であり、石油精製業がその中心的な役割を担っているとされたことを踏まえ、リストアップされた技術には、石油精製プロセスの低炭素・脱炭素技術も含まれています。
そして各技術が、期待される実装年を踏まえ、時系列のロードマップとして整理されています。
(25ページ) カーボンニュートラルに向けた低炭素・脱炭素技術 「原油処理」
トランジション期において石油の安定供給を確保するためには、原油から石油製品を生産する既存の石油精製プロセスの低炭素・脱炭素が重要になります(Scope1+2対策)。
足元でも対策が進む省エネや燃料転換などの低炭素技術に加え、将来的に製油所を脱炭素化していくためのCO2フリー水素の活用など一連の技術が含まれています。
(26、27ページ) カーボンニュートラルに向けた低炭素・脱炭素技術 「低・脱炭素燃料・製品」
石油は、原油生産から製品燃焼までのライフサイクルCO2排出量のうち、製品燃焼時(使用時)の排出が約9割を占めることから、燃料・製品そのものの低炭素・脱炭素化や更なる省燃費化が必要です(Scope3対策)。
石油産業が取組むCO2フリー水素や合成燃料など、これらの燃料・製品の生産や供給に向けたサプライチェーンの構築に関する技術などについて網羅的に盛り込まれています。
(28ページ) カーボンニュートラルに向けた低炭素・脱炭素技術 「技術ロードマップ」
25~27ページで紹介されている各技術について、2050年カーボンニュートラルに向けて社会実装が期待される時期を踏まえ、ロードマップとして時系列に整理・図示されています。
ここでは、石油産業が種々の取組みを進めることで、2050年時点において低炭素化された石油製品と低・脱炭素燃料を供給し、エネルギー安定供給の責務を果たしつつカーボンニュートラルに貢献する絵姿となっています。
また図中の「脱炭素化への方向性」では、石油産業の脱炭素化に向けた取組みと他分野における取組みが連携することで相互に効果を発揮し、更なる脱炭素化が推進される可能性があることが示されています。
(31ページ) 科学的根拠/パリ協定への整合
これまでご紹介した石油分野のロードマップは、2050年カーボンニュートラルの実現を目的としたエネルギー基本計画やグリーン成長戦略などのわが国の政策や、IEA等が公表している国際的なシナリオ等を参照して作成されていることから、パリ協定に整合するものと位置付けられています。
4 おわりに
石油産業は、カーボンニュートラルに向けた変革と、それらの技術の社会実装が実現するまでの間の石油の安定供給という、2つの課題の両立が求められています。これに対しロードマップでは、石油精製プロセスにおける省エネや燃料転換推進といった取組みによる石油製品の低炭素化と合成燃料など脱炭素燃料の供給体制へのシフトに有望な技術が網羅的に整理され、石油産業のトランジションに向けた絵姿が示されています。
本ロードマップを通じ、我が国の実情や石油産業の特性に即したトランジションの重要性について幅広い関係者の理解が深まり、一体となってこれらの取り組みを進めることで、石油産業は我が国の着実なカーボンニュートラル実現に貢献していきます。
以上